デジタルインフラとなるデータセンターの利用が進むことは社会全体での省エネに寄与するものですが、市場規模が拡大する中でそのインフラ自体のエネルギー利用が課題となり、対応が求められてきています。日本政府が公表したグリーン成長戦略では幅広い産業分野での目標が設定され、データセンターには以下の目標が掲げられました。
・2030年時点ですべての新設データセンターを30%省エネ化、データセンターの使用電力の一部を再エネ化
・2040年までにデータセンターのカーボンニュートラルを目指す
IIJでは、温室効果ガス排出量(Scope1,2)の7割以上を占めるデータセンターにおいて、「再生可能エネルギーの利用」と「エネルギー効率の向上」により、温室効果ガスの削減に取り組むことが重要とし、以下の取り組み目標を設定しています。また、自社データセンターでの環境マネジメントシステムに関する国際規格ISO14001の取得をしており、カーボンニュートラルを含む環境パフォーマンスの向上にも取り組んでいます。
取り組み施策 | 取り組み目標 |
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再生可能エネルギーの 利用 |
2030年度におけるデータセンター(Scope1,2)の再生可能エネルギー利用率を85%まで引き上げることを目標とします。 |
エネルギー効率の向上 | 2030年度まで技術革新の継続により、データセンターのPUE(※1)を業界最高水準の数値(※2)以下にすることを目標とします。 |
省エネに対する取り組み ~ 外気冷却、バスダクト、三相4線UPS
カーボンニュートラルを実現するための手段として、IIJのデータセンターで導入をしている省エネ技術について紹介します。 データセンターの設備で最も電力を使用するIT機器冷却に使用するエネルギーを削減する方法として、外気を積極的に利用することが考えられます。外気によりIT機器を冷却することで、主にエネルギーを使用する設備(コンプレッサーや冷凍機※)の稼働時間を極小化します。従来のデータセンターの空調は、1年を通じてコンプレッサーまたは冷凍機を動かし続けるというものでしたが、IIJのデータセンターでは、外気が涼しければその外気を用いてIT機器の冷却を行うことを実施しています。
※コンプレッサー:冷媒ガスの圧縮により冷却を行う空冷式の冷却方式で使用される機器
冷凍機:冷水の循環・熱交換で冷却を行う水冷式の冷却方式で使用される機器
外気を利用する冷却には、直接外気冷却方式と間接外気冷却方式があります。直接外気冷却方式は、効率面では間接外気冷却方式より優れていますが、外気が直接IT機器に触れるため設置環境の空気質などの考慮が必要になります。IIJでは松江データセンターパークで使用しているITモジュール(IZmo)の空調モジュール、白井データセンターキャンパスで直接外気冷却方式を採用しています。
直接外気冷却方式について、空調モジュールを例に、どのような制御を行い、IT機器の冷却を行っているか説明します。外気の温湿度は常に一定ではなく変化しますが、その外気を利用して、IT機器の設置環境として要求される温湿度を保持し続ける必要があります。IT機器の求める温湿度環境を作るために、空調モジュールでは3つの運転モードがあります。
1. 外気運転モード
外気がIT機器の冷却に適した条件だった場合に用いられます。外気をそのままIT機器の吸気に供給し、IT機器の排熱をそのまま排気します。これにかかる消費電力は、ファンのみとなるので、非常に省エネ性に優れています。
2. 混合運転モード
主に冬場、外気をそのままIT機器に供給するには寒すぎる状況の際に用いられます。IT機器は常に暖かい排気を排出しているので、ダンパの開閉操作により、外部から取り込んだ外気とIT機器の暖まった排気を混合し、IT機器の吸気に適した温度にします。消費電力はファンと、無視し得る程度のダンパ開閉時の電力消費のみとなり、省エネ性に優れていると言えます。
3. 循環運転モード
主に夏場、外気がIT機器の吸気に適した温度を超えている際に用いられます。空調モジュールはダンパの開閉操作により外気の吸気・排気口を閉じコンプレッサーを稼働させます。外気運転モード、混合運転モードと比較すると、省エネ性では劣る状況となります。
IT/空調一体型モジュール「co-IZmo/D」では、より一層の省エネ化を目指し、チラーや加湿器を使わず年間を通して外気のみで温度・湿度管理を行う通年直接外気冷却方式にチャレンジしました。実証実験の結果、空調消費電力は削減できた一方で、IT機器の消費電力はファンの風速が上がり増加したため、pPUEは改善したもののトータル消費電力の低減には「IT機器と空調制御の最適化」が必要ということが明らかになりました。
間接外気冷却方式は直接外気冷却方式に比べ効率は劣りますが、外気の空気質が悪い環境においても外気を冷却に使用できるメリットがあります。IIJではIT/空調一体型モジュール「co-IZmo/I」で間接外気冷却方式を採用しており、co-IZmo/Iの特徴の1つである設置場所の自由度の高さに貢献しています。
間接外気冷却方式について、co-IZmo/Iの空調制御を例に、どのような制御を行い、IT機器の冷却を行っているか説明します。基本的な制御の考え方は、直接外気冷却方式を採用している空調モジュールと同様ですが、外気が直接IT機器に吸気されないように熱交換器を用いている点が異なります。
1. 間接外気冷却モード
外気を用いた熱交換のみでIT機器が冷却できる場合に用いられます(主に冬場)。主な消費電力はファンとなり、省エネ性に優れています。
2. 間接外気+冷凍冷却のハイブリッド運転モード
外気を用いた熱交換のみではIT機器が冷却できない場合に用いられます(主に中間期)。コンプレッサーを稼働させますが、外気も併用するためコンプレッサーだけで冷却する場合より消費電力を下げることができます。
3. 循環運転モード
主に夏場、外気がIT機器の吸気に適した温度を超えている際に用いられます。
IIJではIT機器冷却について、ハードウェアだけではなくソフトウェアの観点からも省エネの取り組みを行っています。その1つが白井データセンターキャンパスで実証を進めているAIを利用した空調制御です。IT機器の稼働状況を含むデータセンターの状態を把握、AIによってその環境下での最適な空調設定を導き出します。現在は検証データの蓄積を進めている段階ですが、将来的にはIT機器とより密に連携し、空調制御にフィードバックする情報を増やすこと、IT機器側も含めた制御を検討しています。
電気設備の省エネの取り組みとして、三相4線式を用いた配電方式が挙げられます。日本国内における、従来型のデータセンターでは、国内で最も汎用性の高いAC100Vの電源が使われてきました。そんな中、クラウドコンピューティングの普及期に入り、クラウド事業者自らがクラウド基盤に適したデータセンター設備を構築するようになり、クラウド基盤設備においては、AC100Vではなく、AC200V系に統一することが可能となりました。IIJは効率化を進めるために、松江データセンターパークや白井データセンターキャンパスにおいて、AC200V系を全面的に採用し、配電方式を見直しました。これにより、配電経路上を流れる電流を少なくすることができ、電圧降下を抑えられ、給電効率がよくなり、かつ電力線のダウンサイズを行うことができます。データセンターでは、IT機器に対して、無停電で高品質(定電圧、定周波数)な電気をUPS(Uninterruptible Power Systems, 無停電電源装置)から送り出しています。UPSの代表的な出力として、三相3線AC400Vを用いる方法、三相4線AC400Vを用いる方法があります。何れも400Vでの出力ですが、三相3線式はトランス(変圧器)を使いIT機器の動作電圧であるAC100V、AC200Vへ降圧させるのに対し、三相4線式ではAC230Vを直接取り出すことが可能です。トランスを用いた降圧は電力損失を伴うため、給電効率においては三相4線式が優れています。海外のデータセンターでは広く使われ、国内のデータセンターでも導入実績が増えている三相4線式ですが、IIJのデータセンターでは、国内では先駆けて松江データセンターパークのIZmo ver.2(2013年11月)で導入し、白井データセンターキャンパスでも採用しています。
データセンターの電力使用効率を表す指標にPUE(※)があり、PUE1.0に近いほど効率のよいものになりますが、松江DCPはPUE1.2台で運用しており、白井DCCの設計値はPUE 1.2台としています。エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)では令和4年度より、ベンチマーク制度の対象業種にデータセンターが追加されましたが、目指すべきベンチマーク目標は「PUE1.4以下」とされており、両データセンターともに非常に高いエネルギー効率を持つ施設と言えるのです。